「アワヤ系」

ア行とワ行とヤ行を多用した音読課題。


1 謝罪現場

 齢を重ねすぎて危ういので、淡く軟らかい泡の湧くオアシスによく咲く青いアオヤエスの花を和えたおひたしをお渡しするために綾村(あやむら)さんにお会いした。

 ちょうど居合わせた淡谷(あわや)さんが、何やらあわあわと大慌てていらっしゃって、綾村さんが「お謝りになったらいかがですか?」と淡谷さんをあやしている最中だったので、お話をお伺いすることにした。

 慰安会のあと、お皿を割ったとのことで、さらにそのお皿は山口の萩焼のいいお皿だったらしく、容器として重用していたことは言わずもがな、貴重な釉薬を使用した和洋折衷の様式で綾村氏の夫のものなのだった。

 淡谷さんは、お謝りになることにしたらしく、髪を結わえて、あわよくばお許しがおりることを八百万の神にお祈り、お手をお合わせになっていた。


2 庵で舞う人

 その庵を訪ねると、硫黄の臭いが漂うので、異様だと思い庵の様子を窺っていると、酔いの回ったような様子で家人が庵の居間で舞いを舞っていましたので、何事かと思い経緯(いきさつ)を尋ねましたらば「庵の裏庭に2羽いたニワトリが今朝、庭に2羽ともいたので様子を見たら、2羽のうち1羽が産んだ卵が今しがた孵化したのだ」と大層お喜びになったまま舞をお続けなさるので、これは相手にするのは疲れると思って「終わったら舞をお止めになりますか?」と告げましたら「おや、終わるものか。儂は庵で舞わねばならぬのだ」と舞をお止めになる様子はなく、終いにはあわや足をお滑らかしかけて、大慌て、大惨事の一歩手前でした。


3 母の言

 巌のようなお人におなりなさい、と母はいつもお言いになっていました。イワオとは何ですか、と私がよく理解していないことをお伝えしたら、母はそのうちわかりますよ、あなたは今はまだ吹けば倒れるような気弱な男の子(おのこ)ですが、きっと誰かのため、世のためとなるような男の子になれるはずです。ゆくゆくはお世継ぎとしてお父様の跡を継ぐ用意を今のうちからしてゆくのですよ。巌とは言わざるを言わず、言うべくを言う、浮き世のよしなしに流されず雌雄の見極めをし、勇猛に構えておくのです。巌のようにいてくれたら、母はとても嬉しく思います。


4 ブランド牛

 赤尾の『赤牛(あかうし)』はもうお食べになりましたか? 赤尾山(あかおやま)の尾根に生えとります赤尾草(あかおそう)をエサにして生き生きと生育した赤牛は赤みが赤々としておりまして舌触りがようございますのが特徴です。また赤牛の唯一という特長といたしましては、生みの親牛(おやうし)の性質を引き継いでいる点にあります。親牛が足の長い牛なら足が長い仔牛が生まれますし、運動能力の高い親牛からは、うんと動く仔牛が生まれます。『赤牛の言うにゃ、おいらは赤尾山生まれの赤尾育ち。おっかあによく似た赤い牛さ』といった歌も赤尾の子から親まで親しまれています。赤尾のお土産に赤牛はご入り用ではございませんか?


5 女将

 赤いお屋根のお宿におわする女将さんは、お香を焚くのが日課だ。いつも女将さんのお部屋からは鼻腔をくすぐるような芳しい香りが漂っていて、女将さんのお洋服にも濃厚な移り香があり、あまり人には言えようもないことだが、私は女将のお洋服のお香を嗅ぐのが好きだった。まれに女将にやっかみを言うような人もあるが、女将は身だしなみとしてお香を纏わせているのであって、女将にやっかみを言う人よ、それはお門違いではありはしないかと私は口を尖らせたい次第ではあるが、女将がそのようなことを言おうものなら、私は翌日よりお香をやるのをやめますよ、などのようなよくわからない脅し方をしてくるので、女将のお香を嗅ぎたい私は口を閉じて鼻を開くのだ。


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