「お見舞い」(嘘)

A・・・・入院中の少女

B・・・・お見舞いに来た少年

(場面設定)

病院の個室。外は雪が降っている。


入院少女×見舞い客少年

A「ねえ、雪。雪降ってるよ」
B「そうだな。路面も凍結して、おかげでバス停からここまでで三回は転びかけた」
A「痛かった?」
B「ご期待に添えなくて悪いが、見てのとおり五体満足、歩行に支障なしだ」
A「怪我したならすぐに手術できるでしょ。あ、入院することになったらそこにベッドを置いてもいいよ」
B「せっかく高い金払って個室に入ってるんだから勿体ないだろ。僕は素直に有象無象と大部屋に入るよ」
A「言い方。ね、窓開けてよ」
B「寒いだろ」
A[いいの。部屋の主が言ってるんだよ? 他に困る人はいない」
B[僕が寒い」
A「私の布団に入ってもいいよ?」
B「個室たって、完全プライバシーじゃないんだからな? 廊下の騒がしさとか、ほら結構筒抜けだろ?」
A「じゃあ、私が後ろから抱きしめてあっためてあげる」
B「コートが雪まみれだから。清潔感のない男はモテないんだろ?」
A「もー、そんな12年も前の話、今更持ち出さないでよ」
B「記憶力がいいもんで」
A「そういうことばっかり覚えてても仕方ないんですぅ」
B「ちゃんと別のことも覚えてるさ。ほら、プリン。これはちゃんと潰れてないぞ」
A[あ」
B「クリスマスにしか出ない限定品だからって、夏のうちから言うなよなまったく」
A「これを届けるために来てくれたの?」
B「『見舞いに手ぶらで来るなんて信じられなーい』って、初日に言われたことも忘れてない。記憶力のいい僕は」
A「プリンだけ無事でも仕方ないでしょ」
B「でも、プリンが無事じゃなきゃお前に殺されるからな」
A[殺さないよお。私のことなんだと思ってるの」
B「ほら、機嫌直せ」
A「やだ。プリンなんてどうでもいい」
B「そう意地を張るなよ。昨日も『病院食味がなーい』、ってメッセージしてきたろ」
A「送るんじゃなかった」
B「後悔後先立たず、が信条じゃなかったっけ?」
A[信じたそばから崩れるものもあるんだよ」
B「じゃあそんなものには寄りかからないで、別の杖を探さないとな」
A「窓、見て」
B「窓?」
A「ホワイトクリスマス。ロマンチックでしょ」
B「あ」
A「何?」
B「スプーンがない」
A「もう。どうして最後の最後まで君は情緒というものがないかなあ」
B「悪い。行ってくる」
A「ちょっと。……プリン、食べられないじゃない」

狙い

脱力系な少年キャラと入院中の少女とのお見舞いにまつわるキャラ台本。入院中のわがままに振り回されるカップリングもの、最後にはスプーンを忘れてしまいわがままへの対応を完遂でいない日常のやりとりを切り取ったもの――として見ると凡庸な台本である。書かれていないことをどこまで読み取るか、に重きを置いている。少女は裕福な家庭であるが、少年に半年先しか買えないプリンをねだった(=死ぬつもりはない意思表明もしくは願掛けor少年が先も見舞いに来てくれる保証が欲しかった)、三回「は」転びかけた。少女は自力で窓辺に行くことすら難しい。廊下は「急患」の受け入れでざわついている。これ「は」ちゃんと潰れていないプリン。

雪が降り込んだときの動作を入れたり、少女が布団の上でそっぽを向いたり等、使えるところでは動きを出してみても。「痛かった?」と「これを届けるために来てくれたの?」が一番大事な台詞。男側は「じゃあそんなものには~」。

やり方など

・Bは、病室に至る途中で死んでいる

・Bはその事実を秘匿できていると思っている

・Aはその事実に気づいている

・BはAが気づいていることに気づいている

・AはBが自分が気づいていることに気づいていることに気づいている


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