「最後の一個」(喜び)

A・・・・(最後の一個が欲しい側)

B・・・・(与奪権限を持つ側)

(場面設定)

Aは「最後の一個」を目の前にしている。


常連客(A)×パティシエ(B)

A「思ったより時間食ったな。まだ残ってるといいけど。こんばんは。まだありますか」
B「いらっしゃいませ。今日は遅かったね」
A「ちょっと用事が長引いちゃって。それより、木曜限定のモンブランは……まだある! やりぃ。ツイてる。すいません、モンブランください」
B「喜んでるところ申し訳ないんだけど、実はこれ予約のやつで売れないんだ」
A「予約?」
B「うん、予約。取り置きお願いしますって、電話で」
A「そんなんできるんですか。うわー、先に教えてくださいよ。知ってるでしょ。俺がここの曜日限定ケーキ楽しみにしてるの」
B「ごめんごめん。いつも一番乗りか、ほとんどまだ売れ残ってるときに来るから、つい教えそびれちゃったね」
A「そんなー、うう、モンブラン」
B「そんなに僕のケーキが好きなの?」
A「はい。それはもう。ひと口、口に運ぶと、口の中がクリームの甘さとスポンジの柔らかさで満たされて、飲み込むが勿体ない! でも飲み込まないとふた口目が食べれない、幸せの結晶です。それを」
B「初の売り切れだね」
A「あんまりだ。せっかく駅からダッシュで走ってきたのに」
B「そこまで言われると、嬉しい反面、申し訳なさも覚えるね。他のケーキはどうだい? ほら、こっちの苺のショートケーキなんかもおすすめだよ」
A「今日の口はモンブランだったんです」
B「うーん、来週まで……待てそうにないね。その顔は」
A「こうなったら、途中のコンビニでモンブランを買うかな」
B「待った」
A「はい?」
B「一分待って。(電話を掛けて)……もしもし、ケーキの予約の件ですが、確認しましたところ生憎予約予定数に達しておりまして」
A「あのちょっと」
B「はい、はい。誠に申し訳ありません。せっかくご予約いただきましたが。はい、それはもう。来週の分は優先してご予約賜らせていただきます。お詫びに、季節限定のクッキーもつけさていただきます。ありがとうございました。それでは。……さあ」
A「はい」
B「お待ちかねのモンブランだよ」
A「いいんですか?」
B「いいよいいよ。君もウチの大事な常連さんだしね。なんならここで食べていって。珈琲をサービスしてあげよう」
A「やったあ! ついに、待ちわびたモンブランだ。うまい!」
B「ははは。よその店に浮気されたらたまったモノじゃない」
A「んー? なんか言いましたー?(食べながら)」
B「ううん、何も。ほら、珈琲が入ったよ」
A「ありがとうございます。うめえ! やっぱここのケーキが一番だ」
B「気に入っていただけて、何よりだよ」

 

狙い

「喜び」の感情を演出することを目的とした台本。「最後のひとつを見つけた」→「自分の手元に入らない」→「食べることができた」という3ステップを踏んでいる。Bはただの気のいいお兄さんで終わらないように、裏の一面を仕込んでみた。長尺の電話台詞や、通話相手への「ありがとうございました」をどう演技するかも遊びどころ。

やり方など

・Aは本当はケーキに興味はない

・Bは以前いた店で、ライバルに客を総取りされた過去がある

・BはAに好意を寄せている


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