「部長、頼まれていた書類完成しました。こちらに置いておきますね。どうして部長も私に書類を差し出していらっしゃるんですか? 交換、ですか? これ、新人の彼が午前中作っていた書類じゃないですか。渡しておけばよろしいですか? あー、誤字とミスがありますね、ざっと見ただけでも8カ所。フォローしておきます」
仕事が完了したという感情(喜び? 達成感? 疲労感?)を演じつつ、部長が書類を渡してくる意味に気づいているのか。とぼけているのか等で演技の幅のある台本。自分から仕事を増やしてしまうところや、後輩を放っておけないところが彼のキャラクターである。
「嫌な予感がしたんだよなあ。家の前に500円玉が落ちてたから絶対嫌な予感がしたんだよなあ。そうだよなあ、道は工事中だよな。交番までの道はおぼえてたけど、交番から目的地まではノーマークだった。どうしよう、すでに遅刻だし、うわっ。帽子が。歩道橋の上って風強いんだ、うおっ。あー、二段構えね。はあ、洗えるところあるかな」
不幸にこなれているものの、帽子のガードを外されたうえで、糞の爆撃を喰らうという自分VS不幸に負けるというシーン。それでも冷静に対処する点、自宅前の落とし物を交番に届ける善性にキャラクター性がある。突風と爆撃のリアクションの差をうまくつけたい。効果音等がないと糞の描写は伝わりづらいので、音声だけでいくなら最後の台詞に「逆に運がついてるかも」等の独白をつけつつ歩道橋から降りるシーンを追加しても。
「いいか、動くなよ。動くなよ。よーし、いい子だ、じっとしてろよ。これをここに……あっこら。もー、なんでじっとしてくれないの。これはおまえのオモチャじゃないんだぞ。締め切りまであと一日もないから、ほら、な。いい子だから筆を返して? ほら。あっ、こら。いたずらっ子め。もー、だれに似たんだよ」
冒頭で緊張感を高めて高めて、最後は脱力という温度差で成立させる台本。(嘆き)→(叱り)→(懇願、あるいは事実)→(促し)→(怒る)→(呆れ)みたいに、台詞自体は割と属性の緩急がついているので、ほぼ独白といえど演技の幅は広い。飼い猫との距離感まで意識できるとなおレベルがあがる。
「明日までだよね? 任せて。それじゃあとはやっておくから。えーとこれで明日の朝までにやることが、ひー、ふー、みー、うーんこれは先に片付けておいたほうがいいな、よー、っと。うん、四時には寝れそうだな。さあて、忙しくなってきたぞ。あれ、なんだろうこのメモ。うん、5つ。がんばるか」
苦労を苦労と思わないという事実を台詞の文面には起こしていない台本。語らず、演技でそれを示す必要がある。映像作品でいうところの画面で説明するというイメージに近い。それはそれとして「四時に寝れそう」という違和感をうまく活かし、キャラクターあるいはシーンを聴衆に印象づけたい。キャラクターとしての困難は「優先順位で乗り切れる」という解決策に対し「追加の5件目」という困難をぶつけ、キャラクターがどう乗り越えるのか、という脚本のセオリーに則った構造。