仰向けになり、足を少し浮かせた状態(足上げ腹筋)をキープしながら音読する課題。
ひとつあたり 30秒(200~210文字程度)×5回分を目安とした文量で区切ってあるため、インターバルとして使用することを想定しています。
ある国のあるお城のとある塔のお部屋の中に、それはそれは大切に育てられた可愛らしい女の子がいました。髪の色は金、瞳は切り裂くような青、纏うドレスは雨雲よりも暗い黒色で、少しでも機嫌を損ねるとワァワァと喚くその様は、まるで嵐のようで、雷が落ちたようで、人々は口を揃えて彼女のことを『カミナリ姫』と呼びました。王様は自分の娘がそのように思われることが面白くなかったのか、決してカミナリ姫を外へは出しませんでした。
カミナリ姫はいつも鬱屈で、どんなに喚いても堅牢な石の壁は、カミナリ姫の叫びを吸い込んでしまいます。たまに食事を運んでくるメイドがカミナリ姫の「カミナリ」をそれは毎度のように落とされるので、メイドたちはいつもビクビク 。気がつけば今日は十六の誕生日、もう結婚してもいい一人前のレディなのにずっとひとりぼっち。しかも、今日は昼を過ぎてもなかなかメイドがご飯を持ってこないので、空腹でカミナリ姫のイライラは溜まる一方です。
『結婚しよう』カミナリが落ちたみたいでした。夕方にようやく扉が開いたので、怠慢なメイドに「カミナリ」を落としてやろうと、思っていたのに、カミナリに打たれたのはカミナリ姫のほうでした。なんと現れたのはいつものメイドではなく、銀の甲冑に身を包み、緋のマント、燃えるような赤髪の好青年でした。見目麗しい青年は、膝を折ってカミナリ姫の目をまっすぐ見据えて、こちらに囁くではありませんか。カミナリ姫はすっかり一目惚れです。
『驚いた。まさか塔の頂上にこんな麗しき姫がいただなんて。私の手をお取りください。塔の外にはあなたを殺そうとする者が大勢居ますが、私と一緒になれば、誰にも文句は言わせません』甘い声は、カミナリ姫の耳を痺れさせ、声が出ません。いつものカミナリはどこへやら、かろうじて絞り出した言葉は「お父様がお許しになるはずありません」恥じ入りながらも、毅然とした言葉遣いはさすがは姫。そんな姫に、青年はにっこりと微笑みました。
「大丈夫。もう文句は言えませんよ。あなたを閉じ込めていた悪い王も、あなたを暴君などと誹(そし)る民もいません。私の国で、私の姫になってくれませんか?」一世一代のプロポースに「はい」とカミナリ姫は頬を赤らめながら、うなずきました。なんて素敵な誕生日プレゼントでしょうか。まるで雨雲が晴れたように、カミナリ姫の心は穏やかでした。ずっと高い場所でひとりぼっちだったカミナリ姫の「カミナリ」はもう落ちる心配は、きっとないでしょう。