A「はあ。ヒマだねえ。まあ、ヒマなのはいいことだけどよ」
B「あははは、おっちゃんこんにちは!(走りながら)」
A「さよなら、俺の平穏。こら! プールサイドを走るんじゃない!」
B「平気平気。ひゃっほう!(プールに飛び込む)」
A「あの馬鹿。誰が濡れたプールサイドの掃除をすると思ってんだ!」
B「えー、プールって濡れるものでしょー?」
A「あほ! それは泳ぐ奴だけだ!」
B「ちぇ。わけわかんない」
A「もっと大人しく遊べんのか、お前は」
B「だって子供だもーん」
A「揚げ足をとるな!」
B「でも大丈夫だよ、落ちても。水がクッションになるんだ。こないだもテレビでヘリから海に飛び込んだ人がいたけど、ピンピンしてたよ」
A「それはある程度深さがあったりだとか、塩分濃度の関係だとか、そういう話だ」
B「エンブンノード? 子供相手に難しい話してんなよな、おっちゃん」
A「子供なら子供らしく大人の言うこと聞いてろ、ガキ」
B「……。あーっ」
A「なんだ、急に大きな声を出すな」
B「痛い! 今なんか足噛まれた!」
A「はあ?! なんかってなんだよ」
B「ほら、ここ、なんか泳いでる! うわあ、助けて!」
A「なんだ? 何も見えないが」
B「よく見てよ、ここ。下のほう。水の中」
A「ん? 下?」
B「そうもっと――今だ!」
A「うお!」
B「へへーん、ひっかかったー。おっちゃんも泳いだから、これで濡れ仲間だ。子供だからって甘く見たな!」
A「このやろう」
B「うわああ、ちょっ、子供相手に大人げない!」
A「今だけ子供だ! 待ちやがれ!(次第に溺れる)」
B「(泳ぎながら)誰が待つもんか! 悔しかったらここまでおいで――おっちゃん?」
A「(溺れてる)」
B「うそでしょ。おっちゃん!」
A「ぶはぁっ!」
B「おっちゃん」
A「なんだ」
B「泳げないならプールの監視員とかやっちゃダメだよ」
A「はい」
距離感が変わる様を演出している。冒頭で子供が走り抜けることにより、必然的に距離感が開くが、その後監視員側が近づくのか、子供側が近づくかのといった具合に距離感が変化する。最終的には子供の腕でプールに引きずり落とされる距離感まで近づいたのち、プール内で子供だけが逃げる(離れる)という点だけは台本上決まっている。途中の距離感をどう遊ぶかが肝。
・監視員から子供に近づく。
・子供のほうから監視員に近づく。
・監視員は泳げないので、実際に事故が起きた際のことを考えて虚勢を張っている
・監視員は本当は泳げる(最後の台詞のあとに『つかまえた』が入る)
・監視員と子供は親戚同士
・子供は監視員が泳げないことを知っている
・子供は家庭内においてネグレクトを受けている