(場面設定)
幼女が恐怖と戦っている
「うう、すっかり遅くなっちゃった。この道、暗くなるから苦手なのに。回り道しよっかな。でも、お兄ちゃんが遅くなるなって。どうしよう。うん、よし。こわくない、こわくない。あと十歩あるいたら出口、あと九歩、あと八歩、あと七歩、あとあれ? 足音が多いかも? うう、こわくないこわくない。五、四、三、二、一ぃ」
繰り返しのフレーズと、カウントダウン。そして幼女が恐怖への対抗手段として数を数えることで恐怖心を紛らわしているものの、「数え終わるまで出口ではない」という裏目に出てしまい最後には数を急ぐというオチ。恐怖に対する「決心」や「リズム」が特徴の台本。最後のカウントダウンはぶち切れて背後に浴びせる、などの解釈も面白い。走ってもいいし、その場で無力に数えるもよし。演者の色が出しやすい。
「どうしようどうしよう本番はじまっちゃう。ステージに行かなくちゃ。行かなくちゃ、だけど。わたしなんかが出て、みんな、笑われないかな。ああ、台風が来てコンクールが延期になればよかったのに、そしたらあそこのパート、もっと練習できたのに。神様お願いします。どうか、今すぐこの会場が停電しますように、それかミスなく完璧に踊れますように」
少女が恐怖する理由は「練習不足」であり、願うのが「中止」ではなく「延期」であることに、彼女のキャラクター性を見いだして欲しい台本。恐怖への対抗手段は神頼みであり、最初から完璧なダンスではなく、まずは時間稼ぎを願うことをどう捉えるのか。逃げ癖のあるだけか、自分の踊りだけは他に委ねたくはないのか。彼女は何のために踊るのか。観客のため? 自分のため? というところをまずは詰めてから臨んでほしい。
「いやあああああ、わたしの親戚におじさんみたいな人はいません。おかあさんと目元がそっくりだろ? そんなはずありません。おじさんがおかあさんと目元そっくりなら、わたしだっておかあさん似だねって言われるもん。わたしとおじさんはそっくりになりたくないです。わたしの家のほうに来ないでください。向こう、向こうに交番がありますから」
少女が恐怖に対抗する手段は「拒絶」。実際におじさんは少女の親類なのか? 少女はそれを認知しているのか? 交番を進める理由は自首か、道案内か? どこまでのレベルで拒絶するのか、はたまた冗談か? などと、演じ幅の大きな台本である。楽しんでください枠の台本。ちゃんとおじさんの目を確認する動作、あるいは間を仕込むのをお忘れなく。もちろんおじさんを直視しない演技もある。
「わたしがおぼえてるのは、『ホットケーキ、焦げちゃったね』って笑うお兄ちゃんだけ。たとえ腕が六本あっても、顔が八つついてても、ぜんぜん怖くない。ぜんぜん怖くないよ。わたしのお兄ちゃんはたった一人。あなたたちがお兄ちゃんを名乗っても、私は、私のお兄ちゃんは、私が助けます」
兄の台詞『』はそのまま言うのか、少し兄の口調を真似るのか。思い出す笑顔は、この瞬間の眼前の顔(8つもあるからお得ですね!)にあるのか、「ぜんぜん怖くない」のは本当? どうして2回言うのか、それらは誰に向けて言っているのか、自分自身、眼前の兄もどき、ここにいない兄なのか。そのあたりで演じ応えを感じていただけるように仕上げました。「わたしのお兄ちゃんは〜」以降の台詞のどこの部分を化け物相手に向けるのかは演技プラン次第ですが、ちゃんと8個分の顔に聞かせるように飛ばし方と距離感は作るべし、といったところ。さらにハイレベルな話でいくと「私が助けます」は『視聴者』にも向けるような演じ分けができると最高潮です。アニメなら表情アップになるような画。